人を呪わば穴二つ





「あの……なんで……あたしとなら……閉じこめられてもいいって思ったの……?」
 放課後の、体育倉庫。
 恥ずかしそうに、恐々と。伺うような、上目遣いで。普段の気の強さからは想像できないような様子で、問いかけてくる杏。そのまなざしに宿るのは、不安と、期待。
「えっと……それは……」
 想像の範疇を超えた、そんな杏の反応に、言いよどんでしまう。
「暗いトコで二人っきりになるって……わかってて選んだんでしょ」
「あ、ああ……」
「えっと……そのぉ〜……さ、自惚れになっちゃうかもしれないけど……」
 杏は照れ笑いを浮かべながら、言葉を続ける。
「あたし、自信もっちゃってもいいのかな……あはは……」
「…………」
 冗談っぽく発するその言葉の裏には、ごまかしきれない緊張がみえた。それはまるで、昨日のおまじないを鵜呑みにさせてしまうほどの感情。
 杏が――俺を、好き?
「……朋也……そっち……行っても良い……? 実は暗いトコって結構苦手だったりするのよね」
 伺うようにそう言いながら、杏が少しずつ俺の傍に歩いてくる。
「……朋也……」
 嬉しさと、恥ずかしさと、切なさとをこめて。杏が、俺を呼ぶ。
 こんな表情までされて、さすがに気づかないわけがない。杏は、俺ともっと近くになりたいのだと。恋人という形で。
「……杏……」
 俺は――俺は、どうなのだろう。
 少なくとも、杏のことは嫌いじゃない。このおまじないの相手に杏を選んだのだって、杏と一緒なら楽しくて、退屈しないからだ。それに――。
 ふと俺は、自分が杏を好きなのでは、という理由を探していることに気づいた。俺が、この状況に酔って生み出した錯覚なんじゃないか。このまま雰囲気に流されたら、きっと後悔する。
 これが仮に、相手が杏じゃなかったとしたら? もし、杏以外の女の子と同じ状況になれば、俺は同じことを考えるだろうか。たとえば、杏の妹、藤林とか――。
「やだ、そんなに見つめられたら……あたし……」
 藤林の顔を思い出しながら、シミュレーションしてみる。



「あ……あ、あの……」
 あたふたと慌てながら、やおら藤林はトランプを取り出した。ぎこちなく、カードの束をくる。
「あ……」
 ばらまいた。
「そ、その……1枚……」
 藤林は、扇状に広げたトランプを俺の前に突き出した。
 1枚ひく。ハートのエースだった。
「あ」
 ぼんっ!
「……ぼん……?」
「お、岡崎くんっ……わ、私っ」
 やめられないこのままじゃ。



 なにか、違う。とても、今のような気持ちになりそうにはなかった。
 杏は、いまやすぐに抱きしめられそうな位置にいる。その表情が、仕草が。いちいち俺の胸を締め付けるようだった。
 どうやら。
 俺は、自分でも知らないうちに、こいつにまいってしまっていたらしい。
「杏」
 自覚すると、早かった。腕を伸ばし、杏の体を抱き寄せる。
「あ……朋也……?」
 つり上がり気味の瞳を潤ませて、俺を見上げる杏に。俺は、静かに告げた。
「好きだ」
「っ!」
「こんな状況で言うのは卑怯だって、俺も分かってる。でも」
 俺の言葉を遮るように、杏は首を横に振る。
「……あたしも、ずっと」
 そして、不安と緊張とが抜けたように、微笑んだ。
「ずっと朋也のことが……好きでした」



「ん……」
 お互いの口をぶつけ合うような、ぎこちないキス。それが、とても杏らしくて、なぜか安心した。
 固く、両目と唇を閉じていた杏が、背伸びしていたかかとを落として、軽く息をついた。
「……外、暗くなっちゃったわね」
「ああ。一晩中閉じ込められることになるな」
 杏なら携帯くらい持ってるかも知れないが、この悪魔の所業を思わせるおまじないの中では、使えなくなっているだろう。
 だけど、それ以前に。お互い、今ここから脱出しようなんて考えは、持っていなかった。
「杏……俺は、お前がほしい」
 抱きしめたまま、右手を杏の胸の膨らみに持っていく。それで、真意が伝わったはずだ。
「ほ……本気、なの?」
 杏は、びく、と体を震わせると、おずおずと聞いてくる。
「……その……あたしそういうのってよくわかんないし……初めてだし……」
「俺もよくわかんねぇし、初めてだけど任せておけ」
 初めてなのは確かだが、それなりに知識はある。杏を安心させるためだ。
「あ、あんたにそんな真剣な目で言われちゃ……拒めなくなっちゃうでしょ……」
「真剣なんだ」
 自分でも、他人に対してこれほど執着できることが、不思議なくらいに。
「朋也……」
「おまえはじっとしててくれればいいから」
「え……で……でも……やるなら……その……あたしだって……何かしてあげたい……」
 いじらしいことを口にする。本当に、いつもの杏からは想像がつかなかった。そんな杏の可愛い一面を、俺だけが知ったということに、否応無く興奮してしまう。
「杏っ」
「あ、だめ……制服、しわになっちゃう」
 勢い込んで、杏の胸に当てた手に力を込めようとすると、杏はそれをやんわりと遮った。
「あ、ああ……そうだな」
 ぱっと手を離す。
「その……脱ぐから、あっち向いててくれない?」
「あ……ああ」
 慌てて杏とは反対のほうを向く。背中越しに聞こえる衣擦れの音が、胸の鼓動を早くさせた。
 ぱさ、ぱさ、と。衣服が床に落ちる音に、いちいち反応してしまう。
 やがて。
「朋也……もう、いいよ」
 杏の言葉が聞こえると、俺はごくり、と唾を飲み込んで、ゆっくりと杏に向き直った。
 窓から僅かに漏れ入る月明かりに、うっすらと浮かび上がる杏。淡いみずいろの下着だけになった今日の姿が、神秘的な輝きを見せていた。
「は……、恥ずかしいから……あまり、見ないで……」
 真っ赤になった杏が可愛くて、抱き寄せる。
「あ……」
 杏は、一瞬びくっと身を震わせたけど、すぐに俺に力を抜いて、俺の胸にもたれかかってきた。はじめて触れた杏の素肌は、きめが細かくすべすべしていて、それだけで気分が高揚する。
「杏……」
 名前を呼びながら、口付ける。今度は、自分の唇で杏の唇をはさんだり、舌で杏の唇をなぞったりしてみた。
「んっ……」
 鼻から抜ける息に、くすぐったさを感じながら、自分の舌を杏の唇の間に挿し入れる。
「ん……」
 それに応じるように、杏も舌を伸ばす。二人の口の間で、互いの舌が絡み合った。生暖かい感触が直接伝わってきて、興奮が更に高まる。
「んふ……はぁ、ん……」
 杏も同じなのか、鼻から荒く息を抜きながらも、求めることをやめなかった。
「ふ……んっ」
 頃合を見て、手を杏の胸に押し当ててみる。杏は一瞬ぴくっと身じろぎするが、されるがままに俺の手を感じてくれていた。
 舌を絡ませたまま、胸を持ち上げるようにして、杏に触れていく。
「ん……はぁ」
 やがて口を解放すると、杏の表情を見ながら、次第に胸にあてた手を強く動かしていった。指先に微妙な力を加えて、外側から包み込むようにしてもみ続ける。くすぐったそうに身じろぎするが、俺の指が胸の先端に触れた瞬間、
「あっ」
 と声を上げて、ぴくんと体を振るわせる。だんだんと感じるようになってくれているらしい。
「直接触るぞ?」
 こくん、と恥ずかしげに頷く杏を確認してから、胸を覆う下着を上にずりあげる。
「あ……ん」
 露わになった杏の胸は、それほど大きくは無いが、形が整っていて綺麗だった。特に、つんと上を向いた先端は、むしゃぶりつきたくなるほど魅力的だった。
「ん……」
 逸る欲望を抑えながら、まずは乳房の下から持ち上げるようにして、手のひらを合わせた。杏は、何かをこらえるように目を閉じて、なすがままになっている。
 ときどき漏れ聞こえる杏の声を聞きながら、徐々に刺激を強くしていった。
「あっ」
 やがて先端を口に含み、舌を這わせる。なぜか、甘い味がした。
「んっ、あっ……や」
 声に艶っぽい色が目立つようになると、今度は指を下の方にもっていき、下着越しに杏の秘所にはわせた。
「う……はずかしいよ、朋也……」
 弱い抗議の声には耳をかさず、そこを上下になぞるようにして、指をこすりつける。
「あっ……はあっ」
 2箇所を同時に攻められて、杏の息が荒くなっていく。やがて指先の感触が変わると、杏は言った。
「下着、汚れちゃうから……」
 真っ赤な顔でそう告げる杏に頷くと、杏の状態を跳び箱の上に預けるようにして、後ろを向かせた。そして下着を脱がせる。杏のそこが丸見えになった。
 思わず唾を飲み込んだことに気がついたのか、杏は潤んだ目で「あまり見ないで……」と訴えてくる。無理な相談だ。
 気づいたときには、俺は杏のそこに舌をはわせていた。
「あぅっ」
 突然の刺激に、杏が素っ頓狂な声をあげる。構わず、次第に濡れていくそこに、舌で刺激を与えていった。
「あんっ、だめ、これ以上されるとっ」
 身体を震わせながら、訴えてくる。俺も、もう我慢の限界だった。
 ズボンのベルトを外し、いきり立つ欲望の塊を露わにする。
「……いいか?」
 気の利いた台詞を考える余裕もなく、ただそれだけを聞いた。杏は、迷わず頷いてくれた。
「あ……」
 杏の秘所からあふれた液体を、俺自身の先端に塗りつけていく。
 そして狙いを定めると、少しずつ腰を突き出した。
「うっ……つぅ……」
 やはり痛いのか、杏が顔をしかめる。俺はというと、先に伝わるぬかるみと締め付けの感触で、早くも果てが訪れそうになっていた。
 その衝動を、息を整えながらなんとかやり過ごしてから、一気に押し込んだ。
「ひゃっ……っ!」
 根元まで杏の膣内に入ったところで、動きをとめ、息をつく。全体を暖かいうねりが包み込み、締め付けてくる。
「大丈夫か?」
 見ると、杏の目じりから涙が浮かび上がっていた。杏は苦しそうにしながらも、微笑む。
「うん。朋也、だから……」
 その健気さに、愛おしさがこみ上げてくる。繋がったまま、今日の顔をこちらに向けて、キスをした。
「あの、動いて、いいよ」
 やがて恥ずかしそうに杏がつぶやく。俺は野暮なことは言わず、「分かった」とだけ返すと、少しずつ腰を動かした。
「くっ……はっ、あ」
 緩やかな挿入を繰り返しながら、少しでも痛みが和らぐようにと、手を杏の胸に持っていく。乳首を軽くつまみながら揉むようにすると、杏の声にわずかながら甘い声が混じるようになった。
「あっ……あん、はあ、つっ……あっ」
 そうなると、次第に我慢できなくなり、腰の動きが速くなっていく。
「あっあっあっ、ねえ、朋也っ」
「ふぅ、はぁ、はっ、なん、だ?」
「朋也は、気持ちいい?」
「……ああ、すごく気持ちいい」
「そう、よかっ、たっ、あんっ」
 ちゅく、じゅく、という接合部から漏れ出る音にせかされるように、激しく腰を動かす。最後には、自分の腰を杏のお尻に叩きつける、ぱん、ぱしっ、という音が混じるようになった。
「あっ、やん、朋也、はげし……っ」
「はぁ、はぁ、悪い、杏っ、もう、止まらないっ」
「あんっ、あっ、あっ」
 奥から先端にせり上がってくるような感覚。射精が近くなっていた。
「杏、もう、俺っ……」
「うん、あっ、いいよ、出してっ」
 自分でも驚くような速さで、杏の膣内をかき回していく。限界に達した頃、それは訪れた。
「杏っ、杏っ」
「あっ、朋也っ」
「イクっ……うっ、あっ……」
「あん、あっーーーー!」
 杏の最奥まで衝きこんだ瞬間。どくっ、どくっ、という感覚と共に、大量の欲望が杏の膣内を満たした。



 後始末をした後、二人並んで跳び箱に背を預けて座る。
「悪い、膣内で……」
「やだ、謝らないでよ。……責任、とってくれるんでしょ?」
「う……ああ、まあな」
 少しばつの悪い表情で答えると、杏は笑っていった。
「あは、今日は大丈夫よ。たぶん」
 そのたぶんが怖いんだが。
 自分の家のことがあるから、正直家族を持つのが怖いこともある。でも――。
「ん?」
 こいつと一緒なら、大丈夫だと思う。俺が間違ったことをしたら、ケツを叩いてでも俺をコントロールしてくれそうだし。
 そんな気の早いことを考えながら、またキスをした。
「なんか、照れるね」
「うっ……まあな」
 しばらく余韻に浸るように、小さな窓から見える夜空を、二人で眺める。
 やがて、杏が思い出すように言った。
「そういえば、結局明日まで閉じ込められたままなのよね」
「あ」
 それで俺も思い出す。
 確か解呪の方法は──……。

【宮沢】「まずは、お尻を出してですね。ノロイナンテヘノヘノカッパ、と心の中で三回唱えてください」

「杏っ!!」
「えっ? な、なに?」
「すぐに出してやるぞ」
「え……? だ、出す……?」
 まずはベルトを外して……。
 カチャカチャ……。
「ちょ……朋也?! ほ、本気なの?!」
「ああ、本気だ」
「もう一回だなんて……溜まってたの?」
「いや……そうじゃなくてな」
 一瞬それもいいかな、などと思ってしまった頭を、横に振る。
「解呪の方法があるんだ」
「かいじゅ……? って、ここから出られるの?」
「ああ」
 俺の台詞に、杏は一瞬ほうけると、すぐにいつものように手を振り上げた。
「なんでそれを早く言わないのよっ!」
 俺は、慌ててそれを遮る。
「いやだって、言う前にあんな雰囲気になったから」
「うっ……まあ」
 先ほどのことを思い出したのか、杏は赤い顔で手を下ろした。
 それを確認してから、改めてケツを出して、ノロイナンテヘノヘノカッパ、と心の中で三回唱える。
 途端、ガラガラガラ、という音と共に、体育倉庫の扉が開いた。
「お、お姉ちゃん! ……あ」
「あ」
「あ」
 入ってきたのは、藤林委員長さまだった。
 そして俺は、ズボンをずり下ろした状態で、杏の傍に立っている。
「え? え?」
「りょ、椋っ!? えっと、ち、違うのよこれはっ、いえ、違わないけどっ」
「え、あ、えっと、……お幸せにっ!」
 藤林は泣きながら去っていった。
「俺、明日から学校こないかも」
「あたし、家で顔合わせるんだけど」
「…………」
「…………」
「とりあえず、家にくるか?」
「……遠慮しとく」
 やっぱり呪いだ、と思った記念日。



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