早起きは3mmの得?





 柚木詩子は、ちょっぴり悩んでいた。



「というわけで協力して、折原君」
「どういうわけだ?」

 当然のように、浩平は疑問を投げかけた。日曜日の朝に叩き起こされてみれば、見知った、しかしさして仲が良いわけでもない少女が、いきなり協力しろと言ってきたのだ。聞き返さないほうがおかしい。

「その前に。どうやって入ってきた、柚木?」

 一気にまくし立てようと、息を吸い込んだところで止められた詩子は、一瞬、うっ、と言葉を詰まらせる。

「そんな細かいことはどうだっていいじゃない」

 悪びれる様子も無く答える詩子に、浩平はまたか、と息をつき、「いつものことだし」と諦めることにした。

「で、何を協力しろって?」

 こうなったらさっさとお引取り願って、寝なおそうと、先を促す浩平。

「胸揉んで」
「……は?」

 しかし詩子の答えは、浩平に間抜けな顔をさせるのに十分な破壊力を持っていた。眠気も覚める。

「だから、胸揉んで?」

 ちょっとそこの醤油とって、というくらいの気軽さで、繰り返している。
 浩平はまず、これが夢の続きであることを疑った。だから、頭を拳骨でなぐることにした。

「痛いよ、折原君」

 夢ではないらしい。

「もう一度聞く。オレにどうしろって?」
「しつこいね、折原君も。あたしの胸を揉んでって言ってるでしょ?」
「誰が?」
「折原君が」
「誰の?」
「あたしの」
「何を?」
「胸を」
「どうしろって?」
「揉んで」
「どこで?」
「どこでも」

 とりあえず浩平は、恋人である茜に相談することにした。



「……嫌です」

 みなまで話させず、茜は却下した。
 その表情が若干不機嫌なのは、ただでさえ朝に弱い茜が、日曜日の早い時間に呼び出されたことだけが理由ではあるまい。
 親友が、恋人に胸を揉んで欲しいと頼んできたのだ。不機嫌にならないほうがどうかしている。

「……どうして、そんなことを浩平にさせたいんですか?」

 その疑問はもっともだった。

「うん。ほら、あたしってなんていうか、小さいじゃない?」

 そう言われて、茜は視線を詩子の胸元に持っていった。

「……確かに」
「……なんかそうしみじみと言われると、あたしとしてもちょっと傷つくんだけどな」
「……詩子は背も低いし、それくらいで丁度いいですよ」

 フォローのつもりだろうか、茜はとってつけたように言い直した。

「それも結構気にしてるんだけどなー。でも背は仕方ないから、せめて胸だけでもって思って」
「だから浩平に?」
「そうそう。他に仲のいい男の子いないし。ほらあれよ、トランジスタグラマーってやつ?」

 茜は首をかしげた。いつの時代の言葉だろう。

「……では、なんで浩平なんですか?」
「だって、他に知ってる男の子がいないんだもん」

 適当に町で若い男に声をかければ、よろこんで手を貸す男くらいたくさんいるだろうが、知らない人間相手にされるのは嫌らしい。もちろんそうなった場合、胸だけですむとも思えないが。

「自分で揉めばいいじゃないか」
「えー? 人に揉んでもらわないと大きくならないんじゃないのー?」

 元々、揉んで貰うと大きくなる、ということ自体迷信なのだが、純粋な乙女(?)の望みを絶ってしまうのも憚られて、浩平と茜は困った顔を見合わせた。
 妙な沈黙が僅かの間続くと、詩子は痺れを切らしたように、新しい提案を持ちかけた。

「分かった。じゃあ茜が揉んで」

 その提案は、今までになく突拍子もなかった。

「……嫌です」

 当然拒否する茜。

「じゃあ折原君」
「……嫌です」
「茜」
「……嫌です」
「折原君」
「……嫌です」
「茜」
「…………」

 茜が断われば、浩平は喜んでその任につくだろう。
 茜は、自分の恋人がスケベだということを、よく知っていた。だから――。

「……分かりました」

 ――とうとう、詩子の脅迫(?)に折れる形となった。





「ほら茜、こっちきて」

 ベッドの上にぺたんと座り、その後ろを手で叩いて親友を呼ぶ。茜はしぶしぶその言葉に従い、詩子の背中に回って、同様に座り込んだ。

「……じゃあ、いきます」

 観念したように溜息をつくと、その両手を詩子の脇から前に通し、そっと胸の上に置いた。同じ女性であるためか、いきなり揉みしだいたりはしない。まずはさするように、軽く手を動かした。

「あっ……」

 自分で触るのとは違った刺激に、詩子は思わず声を漏らす。茜は、何か失敗したか、と思い、動かし始めていた手を止めた。

「……どうかしましたか?」

 心配そうに訊ねる茜に、詩子は、

「ううん、ちょっと感じちゃっただけだから」
「…………」

 茜は複雑そうな表情を浮かべる。恋人の前で、他の女の子を相手に愛撫なんて――そこまで考えたところで、茜は気づいた。

「……浩平、出て行ってください」

 浩平は、かぶりつきで茜と詩子の睦みあいを観ていた。

「あたしはいいけど?」
「…………」

 詩子の大胆な発言に、浩平は一瞬歓喜の表情を浮かべるが、茜の冷たい視線に気づくと、しぶしぶと部屋を後にする。

「見られてた方が燃えるのになあ」
「……やめますよ?」
「うそうそっ。冗談に決まってるじゃない」

 茜は再び溜息をつくと、続きをしようと腕を伸ばす。しかし今度は、詩子がそれを止めた。茜は怪訝な顔をするが、次の詩子の台詞に得心する。

「ちょっとまって、脱ぐから」

 詩子はシャツとブラを脱ぎ捨てると、改めて茜に背を預けた。

「おまたせ」

 茜は「別にまってないのに」と思ったが、こんなことは早く終わらせてしまおうと考え直した。そこで、あることに思い至る。

「……そういえば、どれくらい続ければいいのですか?」
「うん? 大きくなるまで?」

 何故か嬉しそうに疑問で返す詩子に、茜は呆れるように告げた。

「……無理です」



「ん……」

 茜の繊細な指が、詩子の胸の上を踊る。小さいとはいえ、それなりに育っているので、弾力があった。指の動きに合わせて、ふにふにと形を変える。ほどなく、桜色をした先端が尖ってきた。感度はいいらしい。

「あんっ」
「……変な声を出さないでください」

 茜にしてみれば、半ば無理やりこんなことをしているのだ。そこには、詩子を悦ばせるといった目的はない。

「ね、茜はひとりでしたことある?」
「……ありません」
「ホントに? 折原君のことを思いながら、してるんじゃないのー?」

 からかい気味の詩子の言葉に、茜は顔を赤くする。本当を言えば、浩平が消えている間の一年間、寂しさもあって、そういうことをまったくしなかったわけではない。しかし茜は、恥ずかしくてそんなことは言えなかった。

「ひゃうっ!」

 それを誤魔化すため、茜は詩子のつぼみをきゅっと摘まむ。たまらず声をあげ、ベッドの上で跳ねる詩子。

「……変なことを言うからです」

 茜としては、少し懲らしめるつもりの行動だった。しかし――

「茜、もっとして」

 ――事態は、茜の望まない方向に流れていた。

「……嫌です」

 形にならない疲労を感じながらも、途中でやめると後が面倒になると思い、茜は再び手を動かした。気休めだとは思いながらも、胸を搾るように。

「うんっ……はあっ」
「…………」

 詩子のあげる艶かしい声に、茜は考えを巡らせる。なんとか早く終わらせる方法はないだろうか。それも、詩子からやめてと言ってくれるのが望ましい。
 ぎゅっ、ぎゅっ、と、握りつぶすように強めに揉みしだいてみた。

「うぁんっ。それいいっ」
「…………」

 早くも道は閉ざされた。
 いっそのこと、このままイかせてしまったら、解放してくれるかも知れない。茜はそんな、諦めの境地に達してしまった。

「あんっ」

 乳首を軽く挟むようにして、円を描くように両手を動かす。

「はぁ……んっ」

 緩急をつけて刺激を与えつづけると、詩子の身体は段々と桜色に染まっていった。

「あ、はぁ……んっ。はぁ」

 徐々に息も上がり、前のめりになってくる詩子。茜はここぞとばかりに、きゅっと詩子の乳首を、引っ張るように摘み上げた。

「あっはっ……ああぁぁんっ!」

 詩子はその刺激に、背中をのけぞらせ、そのままベッドに突っ伏した。
 ミッションコンプリート。
 茜は、いつの間にかうっすらと浮かべていた汗を、そっと拭った。

「……これ以上は無理ですね。ここまでにしましょう」

 うつ伏したままの詩子に声をかけ、茜はベッドを後にしようとする。
 珍しく二人とも休日に早起きしたのだから、このまま浩平と久しぶりにデートにでかけるのもいいかも知れない。茜はそんなことを考えていた。





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